引っ越し貧乏は理想の住まいを手に入れるための代償、と強がってみる

この10年で4度引っ越した。5つの物件に住んだことになる。

しかもここ5年に限ると3度だ。これは少し多過ぎる。親に報告する度に「またか、いいかげんにしろ」という反応をされる。

住んだ場所は、すべて都内かつ東急沿線で、目黒区⇒目黒区⇒世田谷区⇒目黒区⇒世田谷区と、目黒と世田谷を行ったり来たりだ。

住んだ物件の種類は、ビル⇒テラスハウス⇒分譲マンション(所有)⇒アパート⇒庭付き一戸建て、とバラエティに富んでいる。

家賃(住宅ローン含む)は基本的にだんだん高くなっている。引越ししなければそこそこの貯金ができたのにと思う。

引っ越し貧乏を絵に描いたような情けない現状だけれど、そのおかげで得られたものがけっこうあると思う。

ひととおりの(種類の)物件に住んでみて分かったことを、いま引越しを考えている人のために、それから将来の自分のために、書いておこうと思う。特に自分には、必ず読んでほしい。衝動的な引越しをしないように。

というか、まさに今、引越しをしたくてうずうずしているので。


まず、入居するときに決め手となったその物件のすばらしい点というのは、すぐに慣れ、すばらしいと感じなくなってくる。これはほぼ間違いない。

逆に、入居するときに気付かなかった、あるいは別にたいした問題じゃないのでは、と思ったその物件の悪い点というのは、住むほどに気になりだし、そしてなかなか慣れない。これもほぼ間違いない。

ということは、長く住みたいなら、メリットの大きい物件よりもデメリットの小さい物件を選ぶべきだ。


こういう一般論は早く切り上げて、さっそく過去の物件を振り返ってみよう。

目黒区の緑が丘にあったビルは、1階が病院、2階がどこかの会社の事務所で3階の1部屋だけが居室という物件で、3階の居室に住んでいた。住んでいたのが我々1世帯だけだったので、非常に気楽だった。そこが最大のよかった点だろうか。

悪かった点は、まず古い。トイレは和式で段差のあるやつで、お風呂もタイル(床)に風呂がまを置いたもので足がぐらぐらする。キッチンシンクもガスコンロ部分も狭く、あれでよく料理をしていたものだと思う。

ここに住んでいた頃は、外食もめったにできないほどの質素な生活をしていたので、引越しなんて考えられなかった。30平米そこそこしかなかったが、新婚夫婦2人が住むには十分な広さだった。

ここには4年ほど住んだ。

夫が転職をして給料が上がると分かったところで(給料が上がったところではないのがポイント)、引越しを考えた。愚かにも借金をしてまで引越しをした。

その引越した先は、古いつくりのテラスハウスだったが、家の前にちょっとした庭があったのと、キッチンとお風呂がピカピカの新品だったのにやられた。駒沢公園の近くで場所的な雰囲気もよかった。

住んでみて、庭いじりに関しては今思い出してもけっこう楽しかった。庭にあこがれるひとに言っておきたいが、庭は狭い方がいいと思う。これについてはまた後で。

キッチンとお風呂も今思うと快適だった。けれども、やはりこういういいところはすぐに慣れてしまう。

それよりも、寝室のある2Fにトイレがない、というのが思っていた以上に不便だった。寝た後の話だ。冬は特につらい。

あと、テラスハウスというのは、壁をへだててお隣がくっついている。その壁を基準に線対称の間取りになっていることが多い。

そうすると、トイレかお風呂のどっちかが、壁を隔ててくっついている確率が高い。うちの場合はトイレだった。それもいやだった。

またおとなりの奥さんがたまに、けっこう大きな声で発声練習のようなことをするのも気になった。

まあ今思えばどれも我慢できたことかなと思うし、子どもがいる今でも、住もうと思えばずっと住み続けられるだけの広さはあったと思う(50平米くらいだった)。大家さんがとてもよい人だったし。

また当時は車がなかったから気が付かなかったが、駐車場が相場よりうんと安い。テラスハウスや一戸建ては、駐車場がただとかうんと安いとかいうことが多いのがメリットだと思う。

特に致命的な欠点がなくよい点もたくさんあったのに引っ越したのは、また夫の収入が増えそうな気配があったのが大きかったと思う(増えたわけではないところがポイント)。

とにかく、ここを4年ちょっとで引っ越した。

次は中古マンションの購入だ。

新築当時は相当の値段で売り出されたらしいそのマンションも、築20年間近とあっては、半値にも満たない価格で売り出されていた。

鼻息荒く内見したときの衝撃は今でも忘れない。エレベータを降りた後のひんやりしたような何ともいえない空気感、木製玄関ドアの品のある質感。すでにクラッと来た。玄関を入ったら畳2枚分くらいの長さがある。もう冷静ではいられなかった。

圧巻は15畳のリビング。L字型をしている。6畳以上の部屋というものを知らなかった自分には衝撃だった。それこそ「ひっ、広い」である。

最上階のその部屋の、大きくて重そうなサッシの向こうには、多摩川のリバーサイドがひらけており、水面がきらきらしている。その大パノラマを前にして、われわれ2人の目はすでにうつろである。

キッチンは細長く6畳あった。ニの字型に、シンクの反対側にもカウンターがある。食洗機やランドリーなどがしつらえてある。ドイツ製だというそれらは、単にみすぼらしいだけという場合が多い日本製の古いキッチンと違って、凄みのあるにぶい光を放っていた。

ここで勝負ありだ。

住んでみたら、基本的に快適だ。重厚で気密性の高いマンションは、特に冬が快適だ。ほんとうにあたたかい。

ただ、これは分譲仕様だからかもしれない。賃貸用のマンションには住んだことがないので、どれほどのものかは知らない。

特にこれといって不満はなかった。3年住んでいてゴキブリに1度もお目にかからなかった。こんなことはここ以外に経験がない。

人を呼んでも鼻高々である。3LDK100平米は、夫婦と小さな子1人には広すぎるくらいだった。

セキュリティの点でも、やはりオートロック付きで管理人常駐のマンションだと安心感が違う。

なんで引っ越しちゃったのか、今でもちょっと後悔している。

ひとつは管理組合の理事会の活動がうざったかったこと。もうひとつは、、、思いつかない。とにかく当時はこれがいやだったのだ。特に夫にとって。

世帯数が少ないマンションだと、すぐに理事が回ってくるし、年に何回か食事会があったりする。こういう活動というか付き合いが我慢できなかった。

それでまた引っ越した。次は自由が丘のアパートだ。

アパートというと薄っぺらな響きがするが、最近のアパートはそうでもない。重厚感や気密性の点ではさすがにマンションには劣るが、並みの一軒家に比べたらあたたかいと思う。

また、アパートというと狭い物件を思い浮かべると思うが、そのアパートは60平米以上の2LDKだ。この物件に出会うまで、こんなアパートがあるなんて知らなかった。

キッチンやお風呂・トイレも、前のマンションほどの豪華さはないけれども最新に近い設備で、エアコンなどはむしろより快適だった。

何より自由が丘の住民だ。自由が丘に住むということは私の長年の夢だった。

自由が丘の駅から5分とかからないそのアパートは、ほんとうに便利だった。何かが急に必要になってもすぐに買いにいける。

また、アパートの周りも純粋な居住用ではなく、店舗が多い。しかもおしゃれな店舗が多い。

同じ自由が丘でも、駅から少し離れた純粋な居住用地域となると、また雰囲気がかわる。高級感はそれなりにあるのだが、個人的には、それなら自由が丘でなくても、という感じがしないでもない。店舗と住居が調和しているさまが、自由が丘に住んでいるという実感を強くさせてくれたような気がする。

そして、アパートは、気楽さという点で右に出るものがない。これは私たちにとっては非常に重要なことだった。

管理人がいないので連日仕事から早く(お昼過ぎとかに)帰ってきたりしても気まずくない。

住んでいる人の感じも、分譲マンションの住人とアパートのそれではやはり違う。マンションを所有して住む人には、不必要なプライドが見え隠れするような気がしたし、賃貸アパートに住む人には、肩の力が抜けた自然さを感じた。

当然、ご近所としては後者の方が気楽でいい。

このアパートの難点は、ひとつは自転車置き場がないこと、もうひとつは楽器が演奏できないことだった。子どもにピアノを習わせることにしたので、これは致命的だった。

アパートでは楽器は基本的にあきらめるしかない。サイレントピアノならとも思ったが、調べてみるとペダルを踏む音とかがけっこう下に響くということらしかった。

もしそれがなかったらもう一度ここに帰りたい気がする。気楽さというのはなにものにも代えがたい。

あとは、小さい子どもがいる家族にとっては、自由が丘はちょっとストレスだ。特に休日の自由が丘は、普通に歩けない。それくらい人が多い。自由が丘に限らず、ショッピングや観光の街に住むとそういうストレスと付き合わなければならない。

因みに、セキュリティ上の怖さを感じたことはなかった。とはいえ、オートロックじゃないから誰でも玄関ドアの前までは来れるので、気になる人には耐えられないかもしれない。

結局自由が丘には1年しか住まなかった。また引越しだ。

1年間アパートに住んでいて、窓から見える景色が下半分は隣の家の屋根だったので、このころは緑が恋しくなっていた。庭で子どもを遊ばせたいと思った。

ということでターゲットを庭付き一戸建てに絞った。

しつこく探していたら、すごい物件が見つかった。100坪以上の敷地に建つ石垣塀に囲まれた一軒家。文字どおり広大な庭である。一番狭い側の庭ですらテラスハウスのときの庭の何倍もある。

桜、梅、紅葉にみかん、さまざまな木々が悠然と枝をのばしている。

特に桜の木はすごい。春には前の道路に桜のトンネルができる。

建物はけっこう古いが、味がある。巨大な窓が外の柔らかな光をとり込んでいる。

この物件も即決だった。

しかしてその実態は、確かに桜の季節はすばらしかった。朝起きると窓のむこうに桜が広がっている光景は、夢のようですらある。

また、夏の涼しさにもびっくりした。たくさんの木の葉が夏の日差しをカットしてくれる。

それでいて、落葉樹の場合冬に葉が落ちるので、冬の光は通してくれる。

しかしその葉っぱが問題だった。掃除が異常にたいへんなのだ。

毎朝6時に起きて道路の落ち葉掃除をしている。多いときは夕方も必要だ。

自分がやらないとお隣やお向かいに迷惑がかかるのでやらざるを得ない。これがすごいプレッシャーになり、朝5時くらいになると半分目が覚めてしまう。

1年のうち、落ち葉掃除から解放されるのは1月の途中から3月の終わりくらいまでのわずかな期間しかない。4月になると落ち葉ではないが桜の花びらが一気に散る。

庭の木々にあこがれている人は、落ち葉ち掃除のことを絶対に忘れてはいけない。

庭が広いと雑草もすごい。雑草がすごいと蚊もすごい。

雑草だけあって、抜いても抜いてもたくましく生えてくる。業者に頼んだ方が楽かもしれない。

敷地が大きいと、玄関もけっこう引っ込んでいたりするが、外から帰ってきて玄関にたどりつく間に蚊に刺されることが多い。夏は玄関までたどりつくのに緊張する。

蚊の話が出たついでに、自然が豊富だとゴキブリも必ずいる。ゴキブリは木が好きらしい。内見したときから、ゴキブリは絶対に出ると思ったので4月の終わり頃に駆除業者に頼んだ。毒餌を食べさせるやつだ。おかげでゴキブリに関しては我慢できる範囲の出現率だった。

ゴキブリの次はネズミ(たぶん)だ。部屋の中に出てきたことはないが、ときどき寝室の壁の中から動物の動く音がする。これは非常に気持ちが悪い。ぜひ聞かせてあげたいくらい気持ちが悪い。少しずつ慣れてはきたが。

近所付き合いについてはそれほどうざったくはない。自治会費は払わされているが、何かに参加しなければならないようなこともない。

駐車場付きの一戸建て、特に屋根付き駐車場の付いた一戸建ては、それだけで大きな魅力だ。雨に濡れずに車に乗り降りできる。玄関へもすぐだ。

階下というものがないので、子供が走りまわっても何も気にならない。

このように、庭付きの一戸建ては、確かに魅力も多い。

ただこの物件に関しては、お金があって落ち葉掃除や草むしりをお手伝いさんにしてもらえるのであれば、ずっと住んでみたいが、そんなお金がない我々のような借主にとっては、ちょっとしんどい。

あと、この一戸建ては、相場の半分近く賃料が安かった。借りた当時は、わたしたちってやっぱり不動産運を持っている、としか思わなかったが、落ち葉掃除、草木の手入れの大変さ、ネズミ?の音の気持ち悪さを考えると、まことにもって適正な家賃だと感心する。

一戸建てに限らず、安いのにはかならずワケがある。なかなか借り手(買い手)が付かないのにも必ずわけがある。そしてそのワケは、不動産屋に聞いてもほんとうのところは教えてくれない。なぜならそれを言ったらたぶん借りて(買って)くれないから。だから、物件を見るときは、自分の冷静さと想像力に頼るしかない。物件を第三者的に冷めた目で見て、引っ越し後の暮らしを想像してみる。これが難しいのだけれど。

もしも将来一戸建てに住むのであれば、庭の草木の手入れの大変さを知ってしまったので、広い庭はいらないと思っている。ただそうすると採光面や通風面で不満が出るはずだ。それに、今のところはご近所さんに恵まれているが、これとてたまたまのような気がする。そう考えると、一戸建てを選択するというのは基本的にないような気がする。


こんな感じで、いろいろな種類の物件に住んだおかげで、よいところも悪いところもだいぶ分かったような気がする。

次に引っ越すのであれば、たぶん分譲マンションを借りるだろうと思う。

分譲マンションの快適さは上に書いたとおりだけれども、難は管理組合の活動のわずらわしさだった。逆にそれ以外に不満はこれといってなかったのだから、賃貸で住めば、すべての問題をクリアできると思うのだ。

ということで、いろんな種類の物件に住んだ経験をふまえての今のわたしの結論は、「分譲マンションに賃貸で住む」です。

人それぞれに、我慢ならないポイントというのは違うと思うけれども、あなたの引越しにちょっとでも参考になれば幸いです。